所 感(令和4年 年始挨拶)

 トンネル工事における切羽災害が社会的に大きくクローズアップされています。切羽災害に対する直接的な対策は「切羽への立ち入り禁止のルール」を明確にし、切羽に人が立入らざるを得ない全ての作業について、誰が何を根拠に判断するのかを具体的に定めることだと思います。更に、これを機に一歩踏み込んで、以下に示すような、未だに残っている「悪しきトンネルの文化」を改革すべき大きなチャンスだと思います。
 トンネル施工のこれまでの歴史の中で、先人達は、危険をある程度覚悟の上で、少々の事故が発生することは仕方がないとの感覚で施工してきた歴史があります。そうした中、少しでも事故を無くそうと事故が発生する度に原因究明や対策・新たなルールの策定に努めてきたにも関わらず、肌落ち災害が減少しないのは、未だに切羽に立ち入らなければならない施工方法が根本的に改善されていないためだと思います。
 近年、支保工建込みの自動化、装薬時の遠隔操作での装填等、ゼネコン各社は機械化を促進させています。しかしながら、各社が各々競争して開発することも大切ですが、早期にこれらの新技術を完成させて全国のトンネル現場に展開・普及し、人が切羽に立ち入ることなくトンネルの施工が可能となるよう、トンネル業界が一体となって開発・導入を進める仕組みづくりが必要ではないかと思います。
 先般実施いたしました会員各社のアンケートの意見は以下の通りです。
 (1)過去の肌落ち災害の状況をみると、吹付コンクリート厚が薄いと思う。肌落
    ち災害を防ぐために必要な吹付コンクリートの厚さが確保されていないので
    、切羽に立ち入って安全に作業ができるよう鏡吹付けの施工を改善して頂き
    たい。「切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」が策定され
    ているにもかかわらず、一部の発注者は、未だに鏡吹付けを承認していない
    状況にある。全てのトンネル工事においてガイドラインの徹底をお願いした
    い。
   @十分な鏡吹付け(5cm以上)を施工できるよう設計に取り入れて頂きたい
   A設計に中硬岩級(CUタイプ)には周辺の一次吹付けがないので、設計に入
    れるようにして頂きたい。
   B適正(安全)な支保パターンで施工できる支保パターン及び補助工法が確
    実に施工できるよう設計変更を行って頂きたい。
 (2)一昨年の春以降、国交省本省との意見交換会等を通じて明確になってきた
     「積算上の労働時間と改正労働基準法における労働時間の上限規制」の問
    題、及び「直轄積算基準における積算上の作業量と実態との乖離」に関する
    問題、各々の問題解決に向けた作業の進捗状況の確認、各発注者の積算基準
    改定の予定時期の確認を是非お願いしたい。
 (3)トンネルの切羽作業の無人化に係わる新技術を整理し、現時点で導入するこ
    とによって切羽肌落ち災害防止に有効な技術(機械装置)を選び、現場への導
    入を促進するよう指導願いたい。また、同時にこれらの機械の損料が適正に
    積算に反映されるよう、関係各所へ働きかけをお願いしたい。さらに、昨年
    の火取法施行規則の改定により可能となった「無線発破技術」の開発を業界
    挙げて取り組むよう指導願いたい。
 以上の様に、日本トンネル専門工事業協会会員各社は、切羽肌落ち災害に対して大変危機感を持っておりますが、自社だけでの対策では越えられない限界があります。災害を防止するには、発注者、元請、下請が一体となって取り組まなければ改善できないと思います。
 今、国は、働き方改革を進めるうえで、就労時間を厳しく法制化しようとしていますが、これまでのトンネル業界は、日数と一日の就労時間で生産性を上げてきたのが現状です。仕事を受注するには、工程を短縮して安価な価格で落札しなければならず、結果、無理な工程で施工しようとすれば、労働基準法・労働安全衛生法違反や事故に繋がることになるのではないかと懸念しています。
 更に、働き方改革を本気で実現しようとするのであれば、現状の就労時間、日数、施工方法の改革を行わなければ、今後、担い手として、若い人たちがトンネル業界に入職せず、産業として立ち行かなくなると危惧しております。
 我々は、使命感をもって「トンネル文化の改革」に取り組みたいと思いますので、何卒、ご指導、ご支援の程宜しくお願い致します。
 

一般社団法人 日本トンネル専門工事業協会
会   長   野ア  正和